巨人が世界基準のIT化に乗り出した。16日、沖縄・那覇キャンプの走塁練習で反応速度を測定する「WITTY(ウィッティー)」を導入。走塁にも最先端テクノロジーを取り入れ、効率的なレベルアップを図る。
マウンド付近の指示器には、二塁進塁と一塁への帰塁を指示する矢印がランダム表示された。一塁付近と二塁付近に設置されたセンサーを通過すると、選択反応時間などの詳細が測定できる。これまでは単純な走力に基づくタイムを測定してきたが、より強化が必要なポイントを把握できるメリットがある。
例えば、脚力はあるが反応に時間がかかるタイプ、反応は速いが中間のスピードが遅いタイプ―など、細かいデータによって改善点が明確になる。「WITTY」はイタリアサッカーのトップリーグ、セリエAでも導入されているという。
球団は今季、膨大なデータをチーム強化につなげる目的で「データ分析室」を新設した。ボールの回転数など70項目を測定可能な弾道測定器「トラックマン」を昨季から東京D、G球場に設置し、類似のデータを計測できて持ち運びも可能な「ラプソード」も導入。さらに複数台のハイスピードカメラによる各角度からのフォーム分析、スイングスピードなどを測定する器具「Zepp(ゼップ)」など、さまざまな取り組みに着手している。
「WITTY」は、選択反応時間を知ることでコンディション管理にも活用できるという優れもの。走塁面でも最先端のテクノロジーを取り入れ、巨人メソッドを構築していく。
今季から巨人はデータ分析室を創設。投球面でトラックマンとラブソード、打撃データのためにZEPPを導入し、今回は走塁面の強化のためにこのWITTYを導入しました。しかし回転数を計るトラックマンなどと違い、選択反応速度など聞いたことのない単語が多く、どう役に立つのかわからないという方も多いと思います。
このWITTYは走塁強化を図るための機器ですが、具体的にどのように役にたつのか。解説していきたいと思います。
【反応時間・選択反応時間とは何か】
まず記事内にも出ていた反応時間・選択反応時間とは何か、これがわからないとこのWITTYが計るものもわからないため、先にこちらの解説をしたいと思います。
反応時間については以下のように記載されています。
反応時間とは、生体に刺激が与えられてからその刺激に対する外的に観察可能な反応が生じるまでの時間
つまり刺激に対して反応するまでに生じる時間のことを反応時間となります。一方で選択反応時間というのは複数の刺激が想定される状況で、その刺激に応じた反応を求められる状況で、その刺激に対し反応するまでの時間を選択反応時間となります。
球技や対人競技の種目では、相手の出方やボールの行方によって自分の動き(動作や方向など)を選択しなければいけません。野球の盗塁では、投手がホームに投げた場合はスタートを切り、牽制の場合は一塁に戻らなければなりません。このように、相手の動きに対して自分の反応を選択しなければならない課題を選択反応課題といいます。
ちなみにこの選択反応時間の対となるのが単純反応時間となります。これはスタートの音がなる→走り始めるといった、あらかじめ想定されている反応をすればよいものに対しかかる時間となります。
引用:固定項目:選択反応時間を短くすることの重要性(NOTE) - e-Volleypedia(eバレーペディア)
つまるところ野球における選択反応時間とは、引用に書かれているような盗塁が求められる場面で、①相手投手からの牽制をすれば帰塁しなければならない②相手捕手が逸らせばスタートを切らなければならない③3~4球目で盗塁しなければならないなど、発生しうる様々な状況において、適切な反応をとるまでにかかる時間です。よく「野球脳」と表現される技術の一つにもなります。
ちなみにこの選択反応時間は想定される動きが増えれば増えるほど反応速度が悪くなるという結果があり、その逆も証明されています。そのため投手のクセや捕手の配球パターンを研究するスコアラーの存在は非常に重要です。
もしある状況では必ずホームに投げるという投手のクセに気付いたらどうなるでしょうか。その場合、スタートか帰塁かの選択が不要になり、あとはスタートを切るタイミングだけに気をつければよいことになります。すなわち、選択肢の数を減らし、単純反応課題にすることで素早い反応が可能になります。優れた選手は多くの選択肢の中から経験や直感によって選択肢の数を減らすことで、素早く動作を開始しているのです。
【WITTYとは】
このWITTYは選択反応時間を計るための機器であり、矢印が表示されるタイプとあることから、これはWITTY-SEMという商品だと思われます。
【動画解説】ひとつ目の光電管を通過後、正面に置かれたWITTY-SEMに左右どちらかの矢印が出て、その方向にある光電管を通過し、シュート。光電管でのタイム測定値が2.00秒を切ることを目標としつつ、シュートの精度も求めています。
これまで走塁はタイムだけで計られてきましたが、このWITTYは複数の方向をランダムに表示するパネルに従い矢印が出た方向に走り、その間に設置されているセンサーで各地点を走りぬけた時間を計測することで各選手のランナーとして出塁したときに走塁における課題をあぶりだすことができます。具体的には以下のような感じです。
一塁 矢印表示するパネル 計測ポイント① 計測② 計測③ 二塁
このように一塁から二塁まで計測ポイントが3つ設置されたとして、3人の選手がみな一塁から二塁まで5秒で到達したとします。これまでタイムで計測していたなかでは、これ以上の情報は数字として表示することはできませんが、今回のWITTYを使うと以下のようになれます。
このような結果が出た場合、各3人の選手の走塁課題は以下のようになります。
選手A:平均的だが②-①に時間がかかっており、加速に課題あり。
選手B:一塁から計測①が最も遅く、反応速度の悪さが課題。しかし加速度は高い
選手C:一塁から計測①が最も速く、反応速度は高い。その代わり計測②・③の数値が悪くスピードが持続していない。
このようにわかりやすく課題に現れます。重信・藤村選手のように足は速いが盗塁になかなか活きない選手などの課題がはっきり現れることになります。
【ドラフト戦略には活きる?】
気になるのはこの機器はドラフトに活かすことが出来るのかどうかということですが機器のサイズなどを考えると、限定的に活かす形になると思います。
スピードガンのように投球をしている選手に構えれば数値を測れるような機器ではなく、設置したセンサーを実際に走り抜ける必要があるため、試合中はもちろん練習中のドラフト候補選手に走ってもらうなんてことは出来ません。
ただすべてのドラフト戦略に活かせないわけではなく、入団テストのような球団側が用意した場所で身体能力を測る際であれば活用することはできると思います。走塁能力テストとして50m走が実施されているので、実戦形式の二次試験の一部に加え、走塁能力だけでなく走塁判断能力を数値として測れるならば、機動野球を行える選手を求めるときに一定に指標にはなります。