社会人野球の世界で生き抜くために、どうすればいいのか。悩んだ末、日本製鉄かずさマジックの渡辺力哉投手(23)は1年前、強い覚悟で監督室を訪ねた。チームを勝たせる投手になりたい。あの日立ったスタートラインから、着実に道を切り開いている。
「僕はたぶん無理だと思います」
6月8日、さいたま市の埼玉県営大宮公園野球場で行われた都市対抗野球大会の南関東2次予選。強豪・日本通運との準決勝で、日本製鉄かずさマジックの先発を託されたのは、2年目の渡辺力哉だった。グッと体を沈めるように左横手からコーナー目がけて投げ込む。一回に安打と犠打などで1死満塁とされたものの、味方野手の好送球で無失点で切り抜けた。これで流れに乗ると、四回までは二塁を踏ませぬ好投。しかし、五回に長打を浴びると制球が乱れ、四回途中2失点で降板した。
「投げミスがないよう一球一球気を引き締めていたので、(中盤に)疲れが出てしまった。自分の出した走者で負けてしまい、悔しかった」と振り返る。ただ、「1年前の自分には、想像できなかった」。決意のサイドスロー転向でつかんだ大役だった。
【渡邊選手の紹介】
173センチ80キロ 左投げ左打ち
変化球:スライダー・カーブ
セットから大きく重心を落とし、肘を柔らかく使い低い角度から横の振りで投げ込むフォームから常時120後半のストレートを投げ込む左腕投手。110キロ台のスライダー、100キロ前後のカーブを投げ込んでいきます。
武器は非常に出所の見にくい独特のフォームから投げ込まれるストレート。リリースする直前まで腕の動きが見えないフォームのため、打者は突如背中から出てくる腕の振りについていけず芯を外され打ち取られています。さらに少しを弧を描くストレートとスライダーの見分けがつきにくく、スライダーとのコンビネーションも打者が苦戦する要因となっています。
チームでは主に先発として起用。5試合のうち3試合は先発として登板し24(2/3)イニングを投げ2勝0敗防御率2点台を記録。大学までは最速147キロでオーバースローよりも少し低い角度で投げるオーソドックスな投手でしたが、社会人でサイドスローに転向。
貴重な変則左腕としてさらなる活躍が期待されます。
【指名への課題】
課題は球速の遅さにより左右で攻め方が確立されていること。渡邊選手のストレートは変則とはいえ120キロ台とかなり遅く、スライダーとの見分けのつきにくさ、そして出所の見にくさで打ち取ります。そのため左打者はアウトコースへの球をレフト方向へ流し打ち、右打者はスライダーをライト方向に打ち返す攻めを徹底しています。ストレートに球威がないためどうしても差し込むことが難しく、芯に当てにくいため引っ張ろうとすると弱いゴロになり打ち取れますが、流し打ちにはどうしても投げ負けています。
また右に対してはスライダーが甘くなってくると高めに抜けてしまうため連打されており、変則投手との試合経験がないチームでは終盤も抑え込めていますが、強豪相手となると5~6回が鬼門となっています。
【指名順位予想】
貴重な変則左腕ですが、プロでは変則左腕でも140前後が平均窮鼠となっており、120キロ台の渡邊選手はどうしてもスケール不足となっています。やはり左に対して差し込めるほどの球威があるストレートを投げられるようにならないと即戦力としては厳しく、現状では指名漏れの可能性が高くなっています。
変則としてもかなり出所が見にくいフォームのため、130後半を記録しツーシーム、もしくはシュート系の球を覚えれば即戦力としては6~8位指名となります。変則左腕はどうしても2年目に壁に当たるため、変化球を覚えられる器用さをアピールできれば指名候補となります。