その右腕は、兄と弟、２人分の夢をかなえた。８月９日、甲子園。立命館宇治（京都）のエース・十川奨己（しょうき、２年）が聖地のマウンドへ上がった。兄の大雅さん（２１）が、その雄姿をアルプスで目に焼き付けていた。
大雅さんも甲子園を目指した元高校球児。地元・奈良県の公立高に入学し、身長１９５センチの奨己と同じように、１９０センチの大型投手として周囲から大きな期待をかけられた。入学直後からＡチームで活躍を見せ、１年生の秋にベンチ入りを果たした。
しかし、２年生の春に右肩を痛めて思うような投球ができなくなった。懸命にリハビリに取り組むも、結局けが以降一度もベンチ入りすることもできず、最後の夏の大会で敗戦した時には人目をはばからず嗚咽（おえつ）を漏らした。大学でも野球を続けたが、右肩痛は癒えなかった。手術などあらゆる手段を尽くして再起を図ったが、最後は投手を諦めて野手に転向。「けががなければ…」と無念さが心に募った。
昨年の春、入寮する弟に「甲子園に出て、自分がけがでできなかった分も一緒に親へ恩返ししてくれ」と思いを託した。入寮後も週に１度連絡を取り、試合で投げている動画を見ながらフォームや変化球についてアドバイスを送った。持ち球のフォークは、奨己の中学時代に大雅さんが薦めたもの。二人三脚で一級品の決め球に仕上げた。
【十川選手の紹介】
１９８センチ８６キロ 右投げ右打ち
変化球：スライダー・カーブ・フォーク
セットからゆったりとした始動で足を上げ、オーバースローよりも低い角度で振り込むフォームから最速１４０キロ、常時１３０中盤のストレートを投げ込む右腕投手。１２０キロ台の横のスライダー、１２０後半のフォークを投げ込んでいきます。
武器は角度があり押し込まれるストレートと打者から逃げるように２種類の小さく落ちるフォークと鋭く落ちるフォークのコンビネーション。ストレートを中心にスライダー・小さな変化のフォークでカウントを整え、すっと落ちるフォークで打ち取っていきます。
チームでは主に先発で起用。２年時には４試合に登板し、決勝では９回６失点と打ち込まれたものの、準決勝では完封するなどポテンシャルの高さを披露。チームを甲子園出場に導きました。３年では３試合を投げ１４（１/３）回６失点で防御率３．７７となっています。
長身ゆえに体への負担を考慮しトレーニングを制限しており、その中で独力で身に着けたという癖がないながらしっかり腕を振れるフォームも魅力となっています。大きな伸びしろを秘めた大型右腕として注目されています。
【指名への課題】
課題は球の質・精度のばらつき。十川選手のコントロールはまだ安定しておらず、ストレートは高めに抜けることが多いが、さらに目につくのが投げる球質の落差が大きいこと。
決め球であるフォークは変化量にばらつきがあるため、カウント球のフォークがほぼ落ちない棒球になるだけでなく、メインのストレートもコントロールがばらついています。そのため同じコースのストレートでも明らかに差し込まれた当たりと、しっかり打ち返せるほどに球質の差があり、それが安定性のなさに繋がっています。
また評価点である伸びしろですが、故障防止のために体づくりを制限しているため、2年から３年にかけて数字面での成長をアピールできなかった点も指名するうえでの課題となっています。
【指名順位予想】
超大型投手は変化球やフォームがしっかり出来上がっていると上位候補になってきます。十川選手はフォームこそ癖がないものの、投げる球は質や精度のばらつきが目立つため、伸びしろを評価しても上位は厳しくなっています。
また今年は知徳の小船翼選手や磐田東・寺田光選手、北星学園・石田 充冴選手、仙台育英・山口 廉王選手、千葉学芸・菊地 ハルン選手など、１９０センチ超えや１００キロ越えの大型高卒投手が多いため比較される選手が多く、その中で技術面ではまだ課題がある十川選手の指名順位は低くなるため、育成３～５位候補となります。
